01.03.04

鼓童

 夜、teatro dal Vermeでの、鼓童-KODO-のコンサートに行ってきた。おやっと思ったのだが、日本人の客がほとんどいない。目に入っただけでは10人ほどだ。日本人のコンサートというとかなりの日本人イタリア在住者が押し寄せるのだが、今回は何故こんなに少ないのだろうか。
 teatroはそんなに大きくなく、日本でいう市民文化会館ほどのもだ。僕が中学の時に経験した合同音楽会のほうが規模が大きい。僕が座ったのは前から4番目の端の席。そこに座った時点で何かが違うと思ったのだが、このteatroのステージは客席と高さがほとんど変わらない。最前列から20cmほど上がったところにステージがある。本当に近い。

 演奏が始まった。一曲目はほぼ全員の奏者が勢揃いした、挨拶のような感じの明るい曲。全部で5種類ほどの太鼓。それに、横笛や鐘などもある。この時点でかなり鳥肌が立ったのだが、すごかったのはその次の曲で、直径1mほどの平胴太鼓3つによるとにかく打撃の攻撃技。かなり良い身体をした3人のお兄ちゃんたちがとにかく叩きまくる。かなり微妙だが絶妙な時間差で叩かれる平胴太鼓。時々3人の間で動いて太鼓を交換する。相当練習したのであろうが、巧い。全く同じ大きさの平胴太鼓の音だけでこの演奏をしたら、ちょっと退屈するところだろうが、そこに彼等の掛け声が入るだけで全く様子が違ってくる。とにかく周りの外国人はその臨場感に飲み込まれていた。3曲目は締太鼓を8つほど使っての、前の曲とは対照的な静かで神秘的な曲。曲というよりも、音の重なり。この小さな締太鼓1つだけで、こんなにも色々なことができるのだなと感心する。これも伝統楽器なのだろうか。現代楽器と思ってしまうほど、本当にたくさんの種類の音が生み出されていく。基本的には静かな曲だったのだが、途中でものすごい波の上がるところがあり、8人の男がものすごい形相で一心不乱に締太鼓を叩きだした。音はとても高いのだが、5倍以上の大きさのある平銅太鼓にも負けないほどの威圧感があった。トタン屋根に、ものすごい勢いで打ち付ける夕立ちだ。この太鼓、ちょっと欲しい。
 中休憩があって、4曲目。小さめの太鼓と鐘のリズムに合わせて天狗の面を被った4人の男どもが舞う。正直、これはどうなんだろうと思った。踊りやリズム自体はとても良いと思うのだが、問題は照明である。あんな明るいところでこんな踊りをしても、その魅力は半減してしまう。周りを真っ暗にし、舞う4人にばっちりスポットライトを浴びせた方がかっこいいと思うのだが。5曲目も続いて踊り。今度は着物を着た女性一人が、横笛の響きに乗ってゆっくりと舞う。横笛奏者の男性はステージから降り、観客席の周りをゆっくりと歩きながら吹く。後ろから笛の音が聞こえ、それに合わせて舞う女性は美しかったのだが、やはり気になったのは照明と、僕の斜め前にある、控え室に向かう関係者用のエリアだった。常にそこで人がごそごそと動いていて集中できない。そして、間違いなくそのエリアの光がこの神秘的な舞を邪魔している。そこに非常口を知らせる緑と白のライトが重なって、もう最悪。ドアくらい付けておけば良いものを、何故こんなふうに開け放っているのだ。これは多分音にも影響するんじゃないだろうか。この穴は、間違いなく音の響きを悪くする。こういう暗めの照明による演出の時くらい、邪魔な光は消してくれ、と言いたい。
 静かな曲が続いたあと、メインの超大太鼓が登場。ふんどし姿の二人の男性、一人は結構身体が大きくて若いのだが、もう一人、多分この人がメインなのだが、背が低く、とても優しい顔をしたおじさんが出てきた。大丈夫なのかな、と思ったが、それは間違いで、その超大太鼓を叩き始めてからそのおじさんは人が変わった。完全にトランスしている。ものすごい勢いで、自分の身体の何倍もある大太鼓を叩き始める。身体はあっという間に汗でピカピカに光り、そこにオレンジ色のスポットライトが反射して美しい。足下からも照らしているのだろうか、teatroの天井にそのおじさんの影が映っていて、もちろんその影が動く勢いもものすごい。とにかくこの超大太鼓、スケールが今までの太鼓とは全く異なる。音も数倍、響きも数倍。ずっと聴いていると、そのうち脳の一部が麻痺したような不思議な感覚に襲われる。足下が震えるほどの、ものすごい大音量がこれでもかというくらいに襲いかかってくるのだが、不思議なことに、ほぼ無音と言っても良いくらいの静寂が詰まったなんと言うのだろう、一つの感覚がが脳の中にあるのを感じる。その静寂と、暴力と言っても良いくらいの打撃音が頭のある場所で混じり合ってぶつかり合って、自分が変な状態になっていくのがわかる。どう変なのかが説明できないが、とにかく何がなんだかよくわからなくなる。自分が何処にいて、何を聴いているのかが曖昧になってくるのだ。そうなると、きちんと見えているはずのステージにピントが合わなくなってくる。そして、あっと思った瞬間に、音はきれいに消えていた。その代わりに、ものすごい拍車喝采が聞こえてきた。しばらく頭の中はぼーっとしていた。
 リクエスト曲は、一曲目と同じように明るい曲にメインの超大太鼓も加わったもので、頭がきちんと回復していくような感じがする。
 休憩を入れないで、1時間40分ほどの長くはないコンサートだったのだが、ちょっと短過ぎる気もした。2時間あっても全然聴ける。かっこいいわぁ。

 コンサートを見た帰り、duomo近くを自転車で疾走した。時間は12時近くになっていたのだが、この時間になるとこの鋪装された広い道にはほとんど人の影が見えなくなる。掃除のおじさんたちがいるくらいだ。そこを、縦横無尽に走り抜けるのは本当に気持ちが良い。寒いけど。

投稿者 tomo : 01.03.04 18:37 | トラックバック
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